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隠蔽や独裁は危機の答えにならず 同志社大学教授・村田晃嗣(産経:正論)


スティーブン・ソダーバーグ監督『コンテイジョン』は、2011年公開の映画である。タイトルは感染を意味する。香港から致死性の高いウイルスが数日で世界的に感染し、米疾病対策センター(CDC)や世界保健機関(WHO)が懸命に対処するという内容で、今や予言的とされる。しかも多国籍企業による森林の乱開発が蝙蝠(こうもり)を発症源とするパンデミックをもたらしたという設定なのである。

 ≪映画や小説が描いた世界≫
 はるか昔に、はるかに悪意に満ちた予言もあった。アメリカの作家ジャック・ロンドンの短編小説「比類なき侵略」で、こちらは実に1910年の作品である。日本の支配下で中国は近代化を遂げてやがて日本を破り、70年には5億人の人口を擁して世界を席巻する。これが「比類なき侵略」である。だが、アメリカ建国200周年に当たる76年に、ある学者が大統領に奇策を授けた。
 そこで、米軍が北京上空から数匹の蚊を散布すると、様々な伝染病が瞬く間に拡散し、4週間後には中国皇帝すら死亡して10億の民はほぼ死滅する。当時の黄禍論(西洋世界での黄色人種脅威論)を背景にしている。
今や新型コロナウイルスが猛威を振るい、日本でも緊急事態宣言が出されることとなった。アメリカでは10万人から24万人が死亡するかもしれないと予測されている。これを18年のスペイン風邪と比較する向きもある。スペイン風邪はインフルエンザで、第一次世界大戦末期から流行し、5億人が罹患(りかん)し5000万人もの命を奪ったとされる。大戦の犠牲者の数倍である。ただし、この統計は正確ではない。そもそも交戦各国が士気を維持するために被害の実態を隠蔽(いんぺい)しており、中立国スペインでの被害が大きく報じられてこの名称になったのだという。

 ≪世界はどう乗り越えるか≫
 地震や津波、ハリケーンのような大規模な自然災害は、しばしば人々を団結させる。東日本大震災の折のように、連携が国境を越えて広がることもある。しかし、感染症は鎖国や自国第一主義をもたらし、国内でも人々を疎遠にさせる。スペイン風邪の際には、医療や衛生のレベルが今日と比べものにならない中で、人々は恐怖にかられて隣人や家族さえも見捨てたのである。そのためこのパンデミックの記憶はより一層陰惨なものになり、これを思い返すことを避けこれだけの出来事であるにもかかわらず記録が乏しいのだという。東日本大震災後に、もはや戦後ではなく災後という新たな時代局面に突入したと論じられた。先述のように新型コロナウイルスについてはまだまだ不明な点が多いが世界中の識者がコロナ危機後の世界について語り始め、それは2020年以前の世界とは大きく異なるだろうと予測している。
もとより様々な論点がありうるが、ここでは3点について触れておこう。まず、世界は国際協調によってコロナ危機を乗り越えられるか、それとも対立と不信が深まるのか、である。第二は、コロナ危機後の世界がアメリカ主導のものか、それとも中国主導に舵(かじ)を切るのか、である。そして第三は、日本の対応である。
 日本にとっては、アメリカ主導の国際協調が望ましい。だが米中両国はこのウイルスの発生と拡大をめぐって非難の応酬に陥っているし、アメリカは今後も国内対策に忙殺されよう。しかも大統領選挙が連動している。そのためトランプ大統領は景気回復に急いでいるようだが、まずは感染の拡大阻止を最優先すべきであろう。さもなければ、長期的に国力を消耗する。また、日ごろは人権にうるさい欧米で、アジア人差別まで噴出している。これでは黄禍論の復活である。最大の死者を出しているイタリアをはじめ、各国でウイルス対策への反省は異なろう。

 ≪武漢で何が起きたか検証を≫
 しかもウイルス対策は金融政策と似ており、政府の対応が早すぎても遅すぎても批判されるが時宜を得ておれば大事に至らず、従って感謝もされない。だが少なくとも発症源であった武漢で何が起こり、中国の初期対応はどうであったのかについては国際的にしっかりと検証されなければならない。さもなければ中国の推進する一帯一路は不安と不信のシルクロードと化してしまう。WHOなど国際機関の信用回復も不可欠である。
日本としては、まずは相当の緊張感をもって感染の拡大阻止に努めなければならない。しかも、パンデミックはこれからも起こるであろう(また中国発の可能性があり、そのためにも武漢での検証が必要である)。危機管理体制とさらなる法整備が急がれる。
 これを機に、インターネットを活用した仕事や教育の環境整備を進める必要もある。さらに中国頼りのサプライチェーンや中国と韓国に過度に依存するインバウンド経済を見直し、医療や公衆衛生分野での国際協力をリードし、アメリカを巻き込んでいかなければならない。隠蔽や独裁も自国第一主義も、コロナ危機への答えにはならないのである。(むらた こうじ)

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