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インド太平洋に「自由主義圏」を 同志社大学特別客員教授笹川平和財団常務理事・兼原信克(産経:正論)


安倍晋三首相が「自由で開かれたインド太平洋圏」構想を打ち上げて以来、インド太平洋地域を一枚の戦略絵図の中に捉えることが、広く国際常識となった。
その歴史的意義は大きい。そして、その構築に向けた努力は端緒についたばかりである。第二次世界大戦とその後半世紀に及んだ冷戦を勝ち抜いたのは、米国と欧州を繫(つな)ぐ大西洋共同体の国々だ。自由、民主主義、法の支配を掲げた大西洋共同体は、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)を抱え、軍事的、政治的、経済的に圧倒的な力を有し、強固な団結を誇る。

≪地域の多様性と指導力欠如≫
しかし産業革命以来、250年にわたり国際政治を切り回してきた欧米諸国の力は相対的に縮小が進んでいる。太平洋とインド洋を結ぶ広大な地域は今世紀、世界の政治、経済の中心となる。特にアジアは人口のみならずGDPでも世界の6割を占めるようになる。この広大なインド太平洋地域に自由主義圏を打ち立てることができるだろうか。それとも「西側」と呼ばれた自由主義圏は縮小を続けるのか。日本の命運も人類の命運も今、大きな分岐点にある。
インド太平洋地域の大きな問題は、その多様性とリーダーシップの欠如である。国連安保理の常任理事国は、ロシアがウクライナを侵略し、中国が東・南シナ海で一方的な現状変更を試みている現状ではもはや、その正統性に深刻な陰りが見える。G7は圧倒的に欧州偏重の組織である。しかもその多くの構成国が前世紀中葉まで、アジアとアフリカで植民地支配と人種差別を行っていた。その傷痕は完全には癒えていない。
G20は、ロシアと中国が加入しており政治的なメッセージが出せない。東アジアサミットは、狭いイデオロギーの枠を超えた幅広い対話の枠組みであるが、その性格の故に逆に実効性に欠ける。
だからこそ、インド太平洋地域に自由主義圏を立ち上げよと日本が主張することには、今日、黄金の価値がある。

≪日本こそ「自由」の意味語れ≫
日本は、自由、民主主義、法の支配といった価値観が、深い倫理的、宗教的伝統を持つアジアの国々に元から備わっている価値観であることを説得する責務がある。現在、グローバルサウスの主力をなすアジアの国々に、この自由主義圏を共に支えようと働きかける義務がある。そのためには日本は、自分の言葉で、自由という価値観の意味を語り始めねばならない。
日本語の「自由」とは本来、仏教用語である。自分に由(よ)ると書いて自由と読む。「フリーダム」を自由と訳した明治人は、自由の意味を正確に理解していた。己の良心と愛の命じるところに従って、自己を実現することが、自由の本当の意味である。自由とは自己実現に他ならない。
自分が本当にやりたいこととは、どうしてもやらねばならないことと同義である。社会の役に立ちたい。弱者の役に立ちたい。自らの心に従い、正しい教えをよりどころとする「自灯明、法灯明」だ。そこに行きつけば、生きる力が無限に湧いてくる。かつて日本人は、儒教の言葉を用いてそれを「浩然(こうぜん)の気」と呼んだ。
深い仏教、儒教、神道、武士道の伝統を持つ日本人は、高潔な倫理観を育み、瞑想(めいそう)の中に本当の自分を求め続けてきた。日本人は、自由という言葉を知るはるか以前から、その意味を知っていた。だから、明治以降に取り入れた私たちの自由主義、民主主義が機能するのである。

≪歴史踏まえリーダーシップを≫
一人ひとりが平等であり、命と自由と幸福を守ることのできる社会。自己を実現することのできる社会。政府はそのための道具にすぎず、政府の正統性が人々の同意に基づく社会。アジアの人々は、宗教的、文明的背景は異なっていても、皆、そういう社会を目指してきた。民の声は天の声であり、暴虐な王は弑(しい)してもよい。それが孟子の教えである。
20世紀後半、裸の暴力である戦争が否定され、弱肉強食の国際政治観が否定され、植民地支配が終焉(しゅうえん)を迎え、人種差別という醜い思想が消えた。そしてソ連共産党をはじめとする独裁国家が次々と倒れていった。アジアの国々も、陸続と民主化していった。
残念ながら、習近平氏の指導する中国は、自由主義社会から最大限の恩恵を引き出して、赤貧の時代を抜けて超大国の地位に上り詰めたにも拘(かか)わらず、その巨軀(きょく)を反転させ、自由主義思想を共産党独裁を否定する危険思想として弾圧し、自由主義圏に対決的姿勢を示すようになった。中国を王道に引き戻さねばならない。それも日本の責務である。
法の支配を力説する岸田文雄首相の最近のメッセージから、自由という言葉が消えたのは残念である。今、アジアにおいて自由主義圏設立のリーダーシップを取るべきは、明治以来、150年間、西洋の自由主義、民主主義の思想と格闘し、ようやく自家薬籠中の物とした日本のはずだからである。(かねはら のぶかつ)
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