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アベノミクス脅かす不安な「影」 京都大学大学院教授・佐伯啓思(産経:正論)

 この14日に投開票された総選挙の結果は比較的わかりやすいものであった。与党の大勝は予想通りであり、この2年に及ぶ安倍晋三政権が信任されたことになる。しかしまた、自民は、大勝とはいうものの、事前に期待された300議席にはとどかなかった。さらに目を引いたのは共産党の躍進であった。

 ≪景気と格差への2つの不安≫
 ここからわかることはどういうことか。仮に今回の選挙の主要争点がアベノミクスにあったとすれば、この結果は次のことを意味しているだろう。
 アベノミクスは一応のところ多数の支持を得ている。しかしまた、それに対する危惧もあるということだ。だから、どちらにウエートをおくかで見方はかなり分かれる。数字からみれば、アベノミクスが信任を得たことは間違いないとしても、アベノミクスに対する有効な対案がまったく打ち出されない状況において、かなりの危惧が表明されたことは決して軽視できるものではない。
 この危惧は主としてふたつの点に向けられているだろう。ひとつは、景気回復に対するアベノミクスの有効性について確証が持てないという点であり、もうひとつは、アベノミクスが所得格差や地域格差を生み出し、社会的平等を損なうのではないか、という点である。もちろん、危惧は現状の評価というよりも、今後の予測に基づいたものである。それはいうまでもなく、第3の矢の成長戦略にも大きく依存している。そして、この危惧は現在のところ決して根拠のないものとはいえないように思う。

 ≪矛盾した課題への「処方箋」≫
 どうしてか。それは、今日のグローバル市場競争が根本的に大きな矛盾をはらみ、それを解決する手段を持っていないからだ。
 今日のグローバル経済においては、国際金融市場を流動する短期資本の規模と速度があまりに高まり、それが、各国の株式や国債価格の変動をますます大きくし、さらには為替相場さえも激しく変化させている。つまり、金融市場のボラティリティ(浮遊性)が著しく高まっている。
 しかし他方で、労働についての国際市場は形成されていない。大半の労働者は国内や特定の地域で職を求めている。従って、政府は雇用に対して責任をもつ必要にかられる。雇用が不安定化すると政府は支持を失う。
 かくて、政府は、一方では国際的な金融の動向をにらみながら、グローバル競争に向けた政策や戦略をとることになるだろう。小泉純一郎政権以来の構造改革や規制緩和、市場競争路線がそれである。安倍政権もそれを継承し、さらには成長戦略を付加している。
 しかし、この方向は所得格差や雇用の不安定化、デフレ化を招く。それは、社会生活を不安定化して政府に対する批判を強めるであろう。市場競争の強化が行き過ぎると、政治はどうしても不安定化することになる。
 こうして一方で、政府は、グローバル市場競争で優位に立つべく市場中心的な政策をとらざるを得ず、他方で、市場経済を安定させて、雇用を確保する政策をとることになる。この相異なった課題に対する処方がアベノミクスの三本の矢であった。
 しかし、グローバル経済のもとでの、超金融緩和はますます金融市場を不安定化するであろうし、財政拡張もどこまで民間投資を誘発するか、決して楽観できない。また小泉構造改革の延長上にある市場競争強化はいっそう労働市場を不安定化しかねない。アベノミクスに対する危惧も故なしとはしないのである。

 ≪不安定化増すグローバル市場≫
 しかし本質的な問題は、アベノミクスというよりも、その背後に忍び寄る巨大な影であろう。1990年に社会主義が崩壊し、それ以降、経済のグローバル化が一気に進行した。それは一方では、新興国の市場を拡張し、今日ではアフリカまで含めて巨大な利潤機会を生み出した。しかし、同時にそれは市場や資本、さらには資源をめぐる激しい競争へと世界を陥れた。この競争に勝つべく各国政府は、超金融緩和によって世界の金融市場へ通貨を供給する。こうしてますますグローバル市場は不安定化してゆく。
 これこそが、今日のグローバル経済のおかれた状況なのである。アベノミクスを取り囲む状況もこのようなものだ。今年の後半あたりになって、中国の成長力が低下し、ロシア通貨危機が生じ、ギリシャを中心に欧州連合(EU)経済が不安定化し、新興国の矛盾が浮かびあがってきた。原油価格は不安定に動き、イスラム国の動向も不気味である。世界にうごめくこうした不気味な影が、いつグローバル経済の矛盾を爆発させるともかぎらないのである。
 アベノミクスの成否もこれらの条件と連動しており、われわれにとってより本質的な問題は、景気動向への一喜一憂よりも、グローバル経済のもつ根本的な不安定性にあることを忘れてはならない。(さえき けいし)
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